「NO!」しか言えなかった夜。20歳、初海外で一番怖かった瞬間
タイ到着
この夜、
僕は初めて、
海外に来て怖いと思った。
バンコクの空港を出た瞬間、
世界が、急に近づいてきた。
人との距離が近い。
声が大きい。
どこを見ても、正解が見つからない。
さっきまで、
確かに飛行機の中にいたはずなのに、
もう、完全に別の世界だった。
「NO」しか言えない
「タクシー?」
「タクシー?」
「タクシー!」
次々に声をかけられる。
距離が近い。
人数が多い。
そして、しつこい。
そのとき、
僕の口から出てきた英語は、
たった一言だけだった。
「NO。」
それだけ。
頭の中では、
もっと言いたいことが渦巻いている。
「どこに行けばいい?」
「バス乗り場は?」
「安全なのか?」
でも、口から出てくるのは、
「NO」だけだった。
本当に怖かったものの正体
このとき、
僕は初めて気づいた。
怖いのは、
夜でも、治安でもない。
「分からないことを、誰にも聞けない自分」
それそのものが、
一番怖かったのだ。
バス乗り場を探して、2時間
僕たちは、
タクシーを使わず、
地元のバスで移動しようと決めた。
でも、
バス乗り場が、見つからない。
気づけば、
2時間近く、
同じ場所を行ったり来たりしていた。
英語ができないから、聞けない。
……違う。
聞けないんじゃない。
聞く勇気が、なかっただけだった。
たった一言で、世界が動いた
あるとき、
僕は立ち止まった。
このままじゃ、何も変わらない。
地図を指さして、
口にしたのは、たった一言。
「which?」
それだけで、通じた。
「こっちだよ」
そう言って、
笑顔で教えてくれる人がいた。
完全な異世界
バスは、
人が乗り切る前に走り出す。
しばらく走ってから、
ドアが閉まる。
窓の外では、
3人、4人乗りの原付バイク。
横転した車を、
数人で笑いながら起こしている。
日本では、
絶対に見ない光景。
でも、なぜか――
目が離せなかった。
赤い光の宿
なんとか辿り着いた宿。
窓の外は、
赤い光に照らされていた。
理由もなく、
急に不安になる。
「……ここ、大丈夫なのか?」
結局、
何も起きなかった。
ただの、思い込みだった。
屋台と犬がくれた安心感
外に出ると、
屋台は普通に営業していた。
その場で絞ってくれる
フルーツジュース。
ただただ、うまい。
人は元気なのに、
犬は、
道で倒れていて動かない。
それを見て、「この街では犬も疲れるよね。」と思い、
少しだけ肩の力が抜けた。
この夜、まだ何も分かっていない
この夜の僕は、
まだ、何も理解していない。
言葉も、
ルールも、
正解も。
でも、
一つだけ感じたことがある。
だれも完璧な英語なんて、求めていない。
間違っても、
立ち止まらなければ、
誰かが、手を差し伸べてくれる。
それでも、もう少し歩いてみよう
正直、
まだ、怖かった。
それでも――
「逃げずに、
もう少しだけ、歩いてみよう」
そう、思っていた。
初海外、
タイ1日目の夜。
旅は、
まだ始まったばかりだ。
(第4話へ続く)


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