同じ人が、二つの数字を持っています
住宅ローンには、「審査に通る額」と「無理なく払える額」があります。
この二つは、同じではありません。だいぶ違うこともあります。
前の記事で、僕は注文住宅のプランナー兼営業をしていたこと、そして自分の家は中古を選んだことを書きました。その中で、家探しは「借りられる額」ではなく「払い続けられる額」から始めたほうがいい、と書きました。
今回は、その続きです。
なぜ二つの数字がずれるのか。そして、払える額をどう出すのか。
売る側にいた人間として、月々の支払いをどう組み立てていたかも含めて、正直に書きます。
審査に通る額は、何を見て決まっているのか
金融機関が見ているのは、おおまかにこういうものです。
- 年収
- 返済負担率(年収に対して、年間の返済額が何割か)
- 他の借入(車のローン、カードローン、奨学金など)
- 勤務先と勤続年数
- 健康状態(団体信用生命保険に入れるかどうか)
- 買う物件の担保としての評価
とても合理的な審査です。貸す側が、貸したお金が返ってくるかを判断するための基準として、よくできています。
でも、ここで大事なことがあります。
これは「貸しても大丈夫か」を判断する基準であって、「その人が幸せに払い続けられるか」を判断する基準ではありません。
当たり前のことなのですが、家を探している最中は、この当たり前が見えにくくなります。
僕自身、お客様に「〇〇万円まで通りましたよ」とお伝えする側でした。その数字を聞いたときの、少しほっとしたような表情も覚えています。
その数字に入っていないもの
審査の数字には、これから起きるかもしれないことが入っていません。
具体的には、こういうものです。
- 子どもの教育費。とくに、中学以降と、大学の入学時
- 親の介護。始まる時期は選べません
- 働き方が変わること。転職、独立、時短、休職
- 体を壊すこと
- 金利が変わること(変動で借りた場合)
そして、意外と抜けやすいのが、家そのものにかかり続けるお金です。
- 固定資産税・都市計画税(毎年です)
- 火災保険・地震保険
- 修繕費(外壁、屋根、給湯器、水回り。新築でも、いつかは来ます)
- 光熱費(賃貸から戸建てに移ると、上がることが多いです)
- 駐車場が不要になる分は下がりますが、上がる項目のほうが多い
「毎月の返済額」と「家にかかる毎月のお金」は、別物です。審査に出てくるのは前者だけです。
月々の支払いは、低く見せることができます
ここからが、売る側にいた話です。
お客様が希望する家と、予算が合わない。これは、しょっちゅう起きます。
そのときにどうするか。家の仕様を落とすか、予算の見え方を変えるか、です。
そして、予算の見え方を変える方法は、いくつもあります。
ボーナス払い
年に2回、ボーナス月だけ返済額を増やす。そのぶん、毎月の返済額が下がります。
月々の数字が下がるので、「これなら払えそう」に見えます。
でも、ボーナスは約束されたものではありません。会社の業績で変わりますし、転職すれば制度ごと変わります。年俸制になれば、そもそもボーナスがなくなります。
30年後のボーナスを前提にした計画を、僕たちは立てていたことになります。
変動金利、そして当初期間だけ低い固定
変動金利や、当初3年・5年だけ金利が低くなるタイプを選ぶと、その期間の返済額は下がります。
これも、月々の数字が下がります。
金利がどう動くかは、誰にもわかりません。下がったままかもしれないし、上がるかもしれない。どちらが得かは、この記事では書きません。それは別の話です。
僕が書きたいのは、こちらです。
当初の低い金利で計算した月額を見て「これなら払える」と判断すると、その判断は、いまの金利にしか対応していません。
返済期間を延ばす
35年を、それ以上に延ばせる商品もあります。期間が延びれば、月々は下がります。
そのかわり、完済するときの年齢が上がります。定年後まで返済が続く計画になっていないか。ここは、契約前に一度、紙に書いて確かめる価値があります。
ペアローン
前の記事にも書きましたが、ご夫婦それぞれが組むことで、借りられる額そのものが増えます。
これは月額を下げる方法ではなく、上限を上げる方法です。予算が足りないときの最後の手段として出てきます。
正直に書くと、これが辛かった
ここに挙げた方法は、どれも制度として存在するものです。使うこと自体は、何も悪くありません。実際に合う方の場合もあります。
僕が苦しかったのは、使う目的のほうでした。
月々の数字を下げて、「なんとなく、余裕で払えそう」という感じを持ってもらう。
その感じが、お客様の背中を押します。契約が進みます。
でも僕は、その数字がどう作られているかを知っていました。ボーナスを前提にしていること。いまの金利で計算されていること。上限まで枠を広げていること。
知っている側と、知らない側がいて、僕は知っている側にいた。
お客様は納得して決められています。説明もしています。それでも、書類を揃えながら、この方の30年後を、僕は何も知らないのにと思っていました。
いま僕は家を売っていません。だから、こうして書けます。
では、払える額をどう出すか
ここからは、僕自身が家を買うときにやった順番です。正解ではなく、一つのやり方として読んでください。
手順1:いまの家賃と、いまの貯蓄ペースを書き出す
いま毎月、住まいにいくら払っていて、いくら貯められているか。この二つが出発点です。
いまの生活で貯められていないなら、返済が始まってから貯まることは、まずありません。
手順2:家にかかる「返済以外」を足す
さきほどの、固定資産税、保険、修繕費、光熱費の増加分。
修繕費は先の話に見えますが、毎月いくらか積み立てておかないと、来たときに借りることになります。僕は月々の予算の中に、この積立を最初から入れました。
手順3:収入が下がる場面を、一つ具体的に想定する
全部は想定できません。だから一つでいいです。
- 子どもが大学に入る年
- どちらかが時短になる期間
- ボーナスがゼロになる年
その年でも払えるか。これを基準にすると、数字はかなり変わります。
手順4:ボーナスを計算に入れない
これは僕の考え方です。ボーナスは、あったらうれしいものとして扱いました。
毎月の給与だけで、返済と家の維持費と、貯蓄が回るか。そこで出た数字が、僕にとっての「払える額」でした。
一般的な目安について
よく「返済負担率は年収の20〜25%以内が目安」と言われます。手取りで考えるなら、もう少し厳しく見る人もいます。
こうした目安は、出発点としては役に立ちます。
ただ、目安はあなたの家族構成も、教育方針も、親の状況も、これからの働き方も知りません。上の手順4つで出した数字と、目安が食い違ったなら、僕は自分で出した数字のほうを信じます。
僕はファイナンシャルプランナーではありません。だから、あなたにとっての正解の額は出せません。
でも、その額を自分で出す方法は、この記事に書いたつもりです。
順番を変えると、見える景色が変わります
払える額を先に出すと、そこから物件を探すことになります。
すると、こんなことが起きます。
- 見に行く物件が変わる
- 予算を超えた物件を、そもそも見なくなる
- 「あと少し出せば」という会話が発生しない
- 営業の方に、はっきり予算を伝えられる
最後のひとつは、実は営業にとってもありがたいことです。予算がはっきりしているお客様のほうが、提案しやすい。僕もそうでした。
逆に、上限から見始めると、こうなります。
上限の近くにある家は、たいてい素敵です。素敵なので、下げるのが難しくなります。そして、下げるかわりに、月々の見せ方を変える方法が出てきます。
この記事の前半に書いた方法が、まさにそこで登場します。
最後に
住宅ローンの審査は、あなたを否定するためのものでも、応援するためのものでもありません。貸す側が、貸せるかどうかを判断しているだけです。
その数字は、あなたの人生を知りません。
知っているのは、あなただけです。
だから、借りられる額ではなく、払い続けられる額から始める。僕が売る側にいて、いちばん強くそう思ったことでした。
次の記事では、僕が金利を選ぶときに何を基準にしているかを書きます。得か損かの話ではなく、リスクの引き受け方の話です。


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