子どもが巣立ったあとの二人へ|空の巣の寂しさに効く4哲学者の処方箋

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子どもが家を出て、久しぶりに夫婦ふたりきりの食卓。
あんなに賑やかだった家が、急に静かになって、何を話していいか分からない。
子育てという共通の話題がなくなった今、私たちは、これからどう過ごせばいいんだろう。

こんにちは。社会福祉士・ケアマネジャーで、40代のパパです。新シリーズ「4人の哲学者に学ぶ 暮らしの実践編」第20話のテーマは、人生の後半に訪れる「子どもの巣立ち後・これからの二人」です。いわゆる「空の巣」の寂しさと、その先の話です。

長年、子ども中心で回ってきた夫婦が、二人だけに戻ったとき、距離感に戸惑うのは自然なことです。でも、ここからの時間は、人生で二度目の「二人の時間」のはじまりでもあります。今日は、これからの二人を温め直す、4人の哲学者の処方箋を5つお届けします。

先に大事なことを。空の巣の寂しさは、子育てをやり遂げた証であり、新しい自由のはじまりでもあります。失ったものを数えると寂しくなる。でも、これから得られるものに目を向ければ、人生後半は、また豊かに開いていきます。

「幸福は、過ぎ去ったものではなく、これから自分で築くものの中にある」

——アランの趣旨より

ケアマネとして人生の先輩方を見てきて思うのは、晩年に支え合えるかは、それまでの二人の積み重ね次第だということ。子育てが一段落した今こそ、これからの何十年を共に歩む相棒との関係を、もう一度耕すチャンスです。

これからの二人を温める 5つの処方箋

処方箋① 「子ども」に代わる、新しい共同の目標を持つ(アドラー)

アドラーは、二人で取り組む「共同の課題」が、関係を強くすると説きました。これまで夫婦をつないでいた最大の共同プロジェクトは「子育て」でした。それが一段落した今、その空白に戸惑うのは当然です。

だから、子どもに代わる、新しい「二人の目標」を一緒に持つ。行ってみたい場所、始めてみたい趣味、整えたい暮らし。大きなことでなくていい。「来年、あそこに旅行しよう」でも十分です。共に目指すものがあると、会話が生まれ、二人はまた同じ方向を向けます。空っぽになった巣を、新しい夢で満たしていきましょう。

処方箋② 新しい習慣を、上機嫌に始める(アラン)

アランは、幸福は意志で始めるものだと考えました。「二人だと気まずい」と感じて家にこもると、寂しさは深まります。でも、行動から変えれば、気分はあとからついてきます。新しい習慣を、ひとつ、機嫌よく始めてみる。

一緒に朝散歩をする、週末に新しい店へ行く、二人で何か習い事を始める。最初はぎこちなくても、続けるうちに、新しい会話と笑顔が生まれます。子育て期にはできなかった「二人の楽しみ」を、今こそ意志を持って作る。上機嫌な一歩が、静かな食卓に、また彩りを取り戻します。

処方箋③ 「失ったもの」より「これから得られるもの」を見る(ラッセル)

ラッセルは、幸福は「持っているもの」「これから得られるもの」に目を向けることから生まれると説きました。空の巣の寂しさは、「子どもがいた日々」という、もう戻らないものを数えることから来ています。

でも、視点を変えれば、これから得られるものがたくさんあります。自分の時間、二人で過ごす自由、これまで我慢してきたことに挑戦できる余裕。子育ての卒業は、喪失であると同時に、長い「自由への入学」でもあります。これから手にできるものを数え始めると、人生の後半が、楽しみに変わっていきます。

新芝をつけた枝
Photo: PtrQs / CC BY-SA 4.0 via Wikimedia Commons

処方箋④ 誠実に、もう一度お互いを「知り直す」(ヒルティ)

ヒルティは、誠実に向き合うことの大切さを説きました。子育てに追われた年月、夫婦はお互いより「子ども」を真ん中に見てきました。気づけば、相手が今、何を考え、何を楽しみにしているのか、よく知らないかもしれません。

だから、改めてお互いを知り直す。「最近、何が楽しい?」「これから、どんなふうに暮らしたい?」。子育て以外の話を、誠実に、ゆっくり聞く。長年連れ添った相手にも、まだ知らない一面がきっとあります。お互いを知り直す対話は、二度目の二人の関係を、新鮮なものにしてくれます。

処方箋⑤ これからを並んで歩く「同志」になる(アドラー)

最後に、4人の知恵を束ねる視点を。アドラーの「共同体感覚」です。これからの人生、二人は親という役割を終え、改めて「人生のパートナー」に戻ります。やがて訪れる老いも、支え合う相手がいれば、心強い。

子育てという大事業を、二人でやり遂げた。それは、何にも代えがたい絆です。これからは、その絆を土台に、人生の後半を並んで歩く同志になる。見つめ合うより、同じ景色を一緒に見る。「これからも、よろしくね」。その一言から、二度目の二人の物語が、静かに始まります。

これからの人生を、軽やかに生きたい方へ

人生の後半を、不安ではなく希望とともに歩みたい方には、岸見一郎さんの『老いる勇気』(PHP研究所)がおすすめです。年を重ねることや、役割の変化を、アドラー心理学の視点で前向きにとらえ直す一冊。空の巣の寂しさを、新しい人生のはじまりに変えるヒントが、やさしく語られています。

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寂しさは、やり遂げた愛の証

5つの処方箋を束ねます。①新しい共同の目標を持つ(アドラー)、②新しい習慣を上機嫌に始める(アラン)、③これから得られるものを見る(ラッセル)、④誠実にお互いを知り直す(ヒルティ)、⑤これからを並んで歩く同志になる(アドラー)。今日は、ひとつだけ。

子どもが巣立った寂しさは、あなたたちが精一杯、愛を注いで育て上げた証です。その大事業を終えた二人には、ご褒美のような「二度目の二人の時間」が待っています。これまで子どもに向けてきた愛情を、これからは少しずつ、お互いへ。人生の後半は、二人で、もっと豊かにしていけます。

静かな食卓に、戸惑う日があってもいい

二人きりの暮らしに、なかなか慣れない日があっても、自分を責めないでください。長く続いた生活のリズムが変わるのですから、戸惑って当然です。哲学は、急いで切り替えるための鞭ではなく、新しい日々にそっと寄り添う杖です。今日は、子どもの巣立ちを「よくやり遂げた」と二人でねぎらい合って、ゆっくり過ごしてください。

オアシスの木の風景
Photo: La Rosa / CC BY-SA 4.0 via Wikimedia Commons

あわせて読みたい一冊

処方箋②「新しい習慣を意志で始める」の原点を味わいたい方は、アランの『幸福論』(神谷幹夫 訳・岩波文庫)をぜひ。幸福は受け身で待つものではなく、自分から行動してつくるもの——その思想は、人生の後半を能動的に生きる支えになります。これからの二人の時間を、明るく照らしてくれる名著です。

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もっと体系的に学びたい・誰かに相談したい方へ

役割の変化や、これからの人生を前向きにとらえ直す——その土台になるアドラー心理学を体系的に学び直したい方には、資格講座という選択肢もあります。人生後半を軽やかに生きる考え方が、独学よりも順序立てて身につきます。もっとアドラー心理学を極めたい方はこちら↓。

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そして、もし空の巣の寂しさが深く、気分の落ち込みが続くなら——それは「空の巣症候群」と呼ばれる、誰にでも起こりうる状態です。一人で抱え込まず、専門家に話してみてください。夫婦で新しい関係を築き直すための相談もあります。オンラインで顔出しなしに話せるカウンセリングもあります。早めに頼ることが、いちばんの近道です。

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このシリーズの今後について

「4人の哲学者に学ぶ 暮らしの実践編」は、夫婦・子育て・職場という、いちばん身近で難しい場所に、アドラーと3大幸福論の知恵を効かせてきました。ここまで20話、読んでくださって本当にありがとうございます。これからも、暮らしの中で効く哲学を、やさしくお届けしていきます。あなたの毎日が、ほんの少しでも軽く、温かくなりますように。

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