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鏡を見て、ふっと「歳をとったな」と感じる朝がある。
体力も、記憶も、少しずつ変わっていくのを感じる。
老いていく自分と、もう少し穏やかに付き合えたら、と思う。
こんにちは、社会福祉士・ケアマネジャーをしているしおこめパパです。3大幸福論編・ラッセル編㉓、テーマは「ラッセルに学ぶ老いとラッセル5レッスン」です。今回は、長く生きたラッセル自身の言葉から、「老いていく自分」とのつきあい方を考えていきます。
ラッセル自身は97歳まで生きた長寿の人物でした。晩年に至るまで、執筆や講演、社会運動を続けた哲学者として知られています。彼が『幸福論』のなかで老いについて書いたのは、まだ58歳のころでしたが、その後の自分自身の人生そのものが、「老いてもなお外側にひらいていく」生き方の実例になりました。ラッセルが老いについて何よりも警戒したのは、「過去にしがみつくこと」と「関心の窓を閉じてしまうこと」でした。
老いとは、若さを失うことではない。関心の窓を、開け続けるか、閉じてしまうかの選択である。
ケアマネとして、たくさんのご高齢の方の暮らしを見させていただいてきました。年齢を重ねても表情豊かでいらっしゃる方の共通点は、「いまの自分のサイズで楽しめるもの」を新しく見つけ続けていることでした。若いころと同じことができなくても、いまのできる範囲で、新しい関心を増やしていく。──ラッセルの言葉は、現場の実感とよく重なります。
ラッセルに学ぶ老いとラッセル5レッスン
老いていく自分と穏やかに付き合うために、ラッセルが教えてくれる5つの視点をお伝えします。
① 老いを「失う」ではなく「変わる」と捉え直す
ラッセルは、老いを「若さを失うこと」とだけ捉える発想を、慎重に避けました。たしかに体力や記憶力は変わっていきますが、同時に、長く生きたからこそ得られる落ち着きや視点の広さ、経験の厚みもあります。「失う」のリストばかり数えていると、老いは不幸の代名詞になってしまう。けれど、「変わる」と捉え直すと、得ているものにも目が向きます。
だから、老いの兆しを感じたときは、「自分は何を失いつつあるか」だけでなく、「自分は何を得てきたか」も並べて書き出してみる。長く生きたからわかった人の気持ち、若いころには持てなかった忍耐、過去の経験から得た判断力。──こうした「得てきたもの」を意識すると、老いの印象は確実に変わります。
② 若い世代に「教えたがる」のを少しゆるめる
ラッセルは、年配者が若い世代に「教え込もう」とする態度を、注意深く戒めました。良かれと思ってのアドバイスでも、押しつけがましくなると、関係はぎくしゃくします。「自分の若いころはこうだった」「最近の若い人は」と語り始めたら、それは少し立ち止まるサインかもしれません。
「教える」より「聞く」を増やしてみる。若い世代がいま何に関心を持っているか、何に困っているか、何にわくわくしているか。──それを尋ねて、最後まで黙って聞く。質問されたときだけ、自分の経験を短く差し出す。これだけで、世代を越えたやりとりはずっと豊かになります。
③ 関心の窓を、外側に開き続ける
ラッセルが老いの幸福にとって最重要だと考えたのが、「関心の窓を、外側に開き続ける」ことでした。自分の体調、過去の思い出、家族のことだけに関心が向くと、世界はどんどん狭くなります。逆に、新しいニュース、近所の出来事、孫の習いごと、季節の花など、外の世界に目が向き続けていると、暮らしの色は保たれます。
歳を重ねたからこそ、新しいことを一つ始めてみる。簡単なスマホ操作、図書館で気になった本、地域のサークル、ラジオ番組。──「もう歳だから」と扉を閉じる前に、ほんの一つだけ、新しい窓を開いてみる。たった一つの窓が、暮らしの空気をずいぶん入れ替えてくれます。
④ 過去の役割を、すこしずつ手放す
ラッセルは、「老いの大敵は、過去の自分にしがみつくこと」だとも書きました。「自分は仕事のできる人間だった」「自分は子どもを立派に育てた親だった」──過去の役割や成功を、今もそのまま握りしめていると、いまの自分の小さな喜びが見えにくくなります。
過去の役割を否定する必要はありません。ただ、「あの時代は、それでよかった」「いまは、今の役割を持っていい」と、握りしめていた手をすこしずつ緩めてみる。子どもや孫に、いまの自分にできる範囲でやさしく関わる。──過去の自分から、いまの自分へ。役割の交代を、自分でやさしく受け取ってあげましょう。
⑤ 「いまの自分」のサイズで楽しむ
ラッセルが最後に教えてくれるのは、「若いころと同じやり方では楽しめない」と気づいたとき、「いまの自分のサイズに合った楽しみ」へ移っていくことでした。山登りが難しくなったら、ベランダや近所の散歩で空を見上げる。長時間の読書が辛くなったら、短いエッセイや詩集を味わう。
大切なのは、若いころの自分と比較せず、「いまの自分にできることのなかで、楽しめるものを探す」こと。サイズが小さくなったからこそ味わえる、しずかな喜びがあります。ラッセル自身も、晩年に至るまで小さな庭や、子どもや孫との会話、好きな散歩道を大切にしました。老いは、楽しみを失う時期ではなく、楽しみのサイズを少しずつ変えていく時期だと、彼は教えてくれます。

ラッセルの『幸福論』を、もっと深めたい方へ
ここまでの5つのレッスンを読んで「ラッセルの分析を、解説付きで読みたい」と感じた方には、『幸福論』(バートランド・ラッセル著・堀秀彦訳/角川ソフィア文庫)がおすすめです。各章の要約付きで、老いや人生の後半に関するラッセルの言葉も読みやすく整理されています。
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老いは、ひらいて受け取るもの
老いについてラッセルが教えてくれることをまとめると、「老いは、否定して抵抗するものではなく、ひらいて受け取るもの」ということに尽きます。「変わる」と捉え直し、教えたがるのをゆるめ、関心の窓を開き続け、過去の役割を少しずつ手放し、いまの自分のサイズで楽しむ。──この5つを心に置いておくと、年齢を重ねることが、少しずつ味方になっていきます。
歳をとるのが怖くなる日があってもいい
もちろん、鏡を見てため息が出る日もあります。記憶のあやふやさに不安になる夜もあります。そういう日は、無理に前向きにならなくていい。「今日は、ちょっと弱気でいる日」と自分に許可を出してあげる。明日も明後日も、また少しずつ「いまの自分」と仲直りできる日が、ちゃんとやってきます。

あわせて読みたい一冊
テレビ番組で人気の解説書から入りたい方には、『NHK「100分de名著」ブックス バートランド・ラッセル 幸福論 競争、疲れ、ねたみから解き放たれるために』(小川仁志/NHK出版)もおすすめです。哲学者・小川仁志さんがラッセルの幸福論を、現代の生きづらさに引き寄せて分かりやすく解説した一冊で、老いや人生後半のテーマにも応用しやすい入門書です。
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シリーズの今後について
次回㉔は「ラッセルに学ぶ子育てとラッセル5レッスン」をお届けします。教育論にも詳しかったラッセルの視点から、子どもの好奇心を伸ばす関わり方を考えます。「3大幸福論編・ラッセル編」はシリーズ全30回まで継続予定です。
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