ラッセル⑯「努力と諦め」5レッスン|頑張りどころと休みどころ

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「もっと頑張れ」と「もう諦めなさい」、どちらの声が正しいのか分からなくなる。
頑張りすぎると壊れるし、諦めすぎると後悔する。
努力と諦めの境目を、誰かに教えてほしい夜がある。

こんにちは、社会福祉士・ケアマネジャーをしているしおこめパパです。3大幸福論編・ラッセル編⑯、テーマは「ラッセルに学ぶ努力と諦めのバランス5レッスン」です。今回は、頑張りどころと、力を抜きどころ。その見分け方について、ラッセルとともに考えていきます。

ラッセルは『幸福論』のなかで、「幸福には努力が必要だが、努力しすぎることも不幸を呼ぶ」と書きました。これは矛盾ではなく、両方が真実です。何もしない人生は退屈と無力感に飲み込まれる。けれど、なんでもかんでも努力で乗り越えようとすると、心身はやがてすり減ってしまう。その間に「ちょうどよい線」がある──ラッセルが探したのは、まさにその境目でした。

努力なしの幸福はない。だが、努力しすぎも幸福を遠ざける。境目を見極めることが、知恵というものだ。

ケアマネとしてご家族の支援に入ると、「もうこれ以上は無理」と燃え尽きてしまわれるご家族と、「もっとできるはず」と頑張り続けて倒れてしまわれるご家族の両方に出会います。介護も子育ても、努力と諦めの黄金比をどう取るかが、生活の質を大きく左右します。ラッセルが提案する「健全な諦めと、健全な努力」の区別は、福祉現場でもとても役立つ視点です。

ラッセルに学ぶ努力と諦めのバランス5レッスン

努力と諦めの境目を見極めるために、ラッセルが教えてくれる5つの視点をお伝えします。

① 自分の手の届く範囲を見極める

ラッセルが最初に教えてくれるのは、「自分の手の届く範囲」を冷静に見極めることです。世の中には、自分が頑張れば変えられることと、いくら頑張っても変えられないことがあります。前者には努力を、後者には諦めを。──この振り分けが間違っていると、頑張る場所がずれて、疲れだけが残ってしまいます。

一日の中で「うまくいかなかったこと」を一つ思い浮かべて、「これは自分が変えられたことか、それとも変えられなかったことか」と自問してみる。変えられたことなら、次の機会に少し工夫を。変えられなかったことなら、ため息を一つついて、そっと手放す。──この仕分けを習慣にするだけで、人生の疲労度はずいぶん下がります。

② 「健全な諦め」と「敗北的な諦め」を分ける

ラッセルは、「諦め」を二種類に分けます。一つは「変えられないことを受け入れる、健全な諦め」。もう一つは「何もかも投げ出す、敗北的な諦め」。前者は人生を軽くしてくれますが、後者は人生を曇らせていきます。両者の違いは、「自分を責めているかどうか」と「他のことには手を伸ばせているか」にあります。

健全な諦めは、「これは仕方ない、別のことを大事にしよう」と前を向けます。敗北的な諦めは、「自分はダメだ、もう何をしても無駄だ」と後ろを向かせます。──だから諦めかけているときは、「これは、自分を解放する諦めか、それとも、自分を責める諦めか」と問いかけてみる。それだけで、健全な側に戻りやすくなります。

③ 努力は、方向性のあるものに絞る

ラッセルは、「何にでも全力で取り組むことは、結局どれも中途半端になる」と警告しました。努力の量と幸福度は、ある一定までしか比例しません。それより大事なのは、「自分にとって意味のある方向」に努力を集めること。あらゆることに同じ熱量で頑張ると、いちばん大事な場所への余力がなくなってしまいます。

そこで、月に一度くらいでいい、「自分がいま、いちばん力を入れたいことは何か」を書き出してみる。三つでも四つでもいい、ただし優先順位はつける。一位のことには十分に努力を、それ以下には、余力で関わる。──こうした「努力のメリハリ」が、長く頑張り続けられる人の共通点だとラッセルは見ました。

④ 結果ではなく、プロセスに集中する

ラッセルは、「結果ばかりを気にする努力は、続かない努力だ」と言いました。結果は、自分の努力以外の要素にも左右されるため、コントロールしきれないものです。一方、プロセスは自分が変えられる部分が多い。だから努力の焦点を、「結果」より「プロセス」に置くほうが、長く幸福に努力を続けられます。

「今日の自分は、どこまで丁寧にやれたか」「今日のプロセスのうち、何が良かったか」を一日の終わりに振り返ってみる。結果がすぐに出なくても、プロセスは確実に積み上がっています。プロセスを見る目を養うことは、結果に振り回されない努力の支えになります。

⑤ 「変えられないこと」へのため息を、減らす

最後にラッセルが教えてくれるのは、「変えられないことに、ため息をつき続けない」ことです。過去の決断、終わってしまった関係、避けられなかった出来事、自分の性格や体質の一部。──こうした「もう変えようがないもの」に毎日ため息をつくのは、いちばん消耗する行為のひとつです。

変えられないことに気づいたら、ため息を一度だけついて、そこからは「では、今からできる小さな一歩は何か」に問いを切り替えてみる。完全に気持ちを切り替える必要はありません。ただ「ため息の数を少しずつ減らす」だけで、心の重さは少しずつ軽くなります。健全な諦めは、最後はこの「ため息の減らし方」に行き着きます。

Acapulco fishermen
Photo: Tomascastelazo / CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons

ラッセルの『幸福論』を、もっと深めたい方へ

ここまでの5つのレッスンを読んで「ラッセルの努力と諦め論を、原典で深く読みたい」と感じた方には、『幸福論』(バートランド・ラッセル著・安藤貞雄訳/岩波文庫)がおすすめです。日本のラッセル読書のスタンダードで、努力と諦めの章の論理の流れを、じっくり追えます。

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努力と諦めは、両方が知恵

努力と諦めについてラッセルが教えてくれることをまとめると、「努力と諦めは、どちらも捨てがたい人生の知恵だ」ということに尽きます。自分の手の届く範囲を見極め、健全な諦めと敗北的な諦めを分け、努力は方向性のあるものに絞り、結果よりプロセスを見て、変えられないことへのため息を少しずつ減らす。──この5つの組み合わせが、長く続く幸福の土台を作ってくれます。

頑張れない日も、諦めきれない日もあっていい

もちろん、人生のすべての場面でこのバランスが取れるわけではありません。どうしても頑張れない日もあれば、どうしても諦めきれない夜もあります。そんなときは、無理に答えを出そうとせず、一晩寝かせてみるのも一つの知恵です。明日の朝、ふと「ああ、ここは諦めていい」「ここは、もう少し頑張りたい」と心が動くことがあります。判断は、急がなくていいのです。

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Photo: H. Zell / CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons

あわせて読みたい一冊

テレビ番組で人気の解説書から入りたい方には、『NHK「100分de名著」ブックス バートランド・ラッセル 幸福論 競争、疲れ、ねたみから解き放たれるために』(小川仁志/NHK出版)がおすすめです。哲学者・小川仁志さんがラッセルの幸福論を、現代の生きづらさに引き寄せて分かりやすく解説した一冊で、努力と諦めの章も平易な言葉で再読できます。

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シリーズの今後について

次回⑰は「ラッセルに学ぶ「幸福をもたらすもの」中間総括5レッスン」をお届けします。ここまでの後半6章をふりかえり、ラッセル『幸福論』の幸福設計図を一枚にまとめ直します。「3大幸福論編・ラッセル編」はシリーズ全30回まで継続予定です。

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