ラッセル⑪「熱意を育てる」5レッスン|目の前を味わう

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何をしても楽しくない、と感じる日がある。
熱中できる趣味がない自分を、つい責めてしまう。
熱意は「もって生まれたもの」だと、半分諦めている。

こんにちは、社会福祉士・ケアマネジャーをしているしおこめパパです。3大幸福論編・ラッセル編⑪、テーマは「ラッセルに学ぶ熱意を育てる5レッスン」です。前回⑩までで「不幸の原因」をひと通り見終え、今回からはラッセル『幸福論』の後半、「幸福をもたらすもの」の章に入ります。最初の入口が、この「熱意(zest)」です。

ラッセルが熱意を語るとき、いちばん多く使ったたとえが「食欲」でした。健康な人は、特別なごちそうでなくても、目の前にある食事をおいしく食べられる。逆に病的に食欲が減っている人は、どんな名店の料理を出されても、味が薄く感じる。ラッセルは、熱意もこれと同じだと言うのです。世界に対して健やかな食欲があれば、目の前のものから自然と味を引き出せる。けれど食欲が痩せていると、何を出されても響かない。

熱意は、人生をおいしくする食欲のようなもの。料理を変えるより、まず食欲を整える。

ケアマネとしてご高齢の方と話していて、「もう、何にも興味がないんですよ」とおっしゃる方は決して少なくありません。けれど不思議なもので、孫の話、好きだった畑の話、若い頃に夢中になった歌の話を振ると、目に光が戻ることがあります。興味がゼロになったのではなく、「興味の窓」が一時的に小さくなっているだけのことが多いのです。熱意は、ある/ない、ではなく、「窓を開ける/開けない」で変わるもの。──これは、年齢を問わず、私たちにも言えることだと思います。

ラッセルに学ぶ熱意を育てる5レッスン

熱意を育てるためにラッセルが大事にしているのは、「何かに夢中になれる自分を作る」ことではなく、「目の前のものから、自然と味を引き出せる感覚を取り戻す」ことです。ここからは、それを日常に落とすための5つの視点をお伝えします。

① 食欲のように、目の前のものに手を伸ばす

ラッセルは、熱意を「食欲のようなもの」と表現しました。健康な食欲とは、「これじゃなきゃ嫌だ」とこだわるものではなく、目の前に置かれた料理に自然と箸が伸びるような感覚です。熱意もそうで、特別な何かが現れるのを待つのではなく、いま目の前にあるものを「ちょっと味わってみる」ところから始まります。

毎日の通勤路、いつもの夕飯、いつもの会話。それらをただ流すのではなく、「今日はこれ、ちょっと面白いかも」と一瞬でも思えるかどうか。その小さな「今日はこれ」を積み重ねていくのが、熱意を育てる第一歩です。完璧な趣味を探す前に、すでにある日常をひと口、味見してみる感覚から始めましょう。

② 関心の窓を、複数持つ

ラッセルは、関心が一つに偏りすぎる人を心配しています。たった一つのものに人生のすべてを賭けると、それが揺らいだとき、世界が一気に色を失ってしまうからです。だから熱意を健やかに育てたいなら、関心の窓を「いくつか」持っておくことを勧めます。完璧に極める必要はなく、「気が向いたときに覗ける窓」が三つか四つあれば十分です。

仕事、家族、健康、趣味、季節の楽しみ、本、人との交流。窓は何でも構いません。大事なのは、一つの窓が曇ったとき、別の窓から空が見えること。これが、不調の日や落ち込みの日のセーフティネットになります。一つに賭けるより、いくつかをほどよく持つほうが、熱意は長持ちします。

③ 子どもの目で、世界を見直す

ラッセルは、熱意の原型を「子どもの好奇心」に見ました。子どもは特別な遊具がなくても、葉っぱ一枚、小石一個で、平気で一時間遊んでしまえる。「何のため」「役に立つか」を考えずに、ただ目の前のものに引き込まれる力。──大人になっても、その回路は完全には消えていません。ただ、忙しさと「効率」の中で、使う機会が減っているだけです。

通勤途中の街路樹、料理の湯気、子どもや孫のひとこと、夕方の空の色。ほんの一瞬「いいな」と思ったら、それを慌てて流さず、もう数秒だけ味わってみる。役に立つかどうかは脇に置いて、ただ「いいな」と感じる時間を増やしていく。これが、子どもの目を借りる練習です。

④ 「熱中」と「熱意」を分ける

ラッセルは、熱意と「病的な熱中」を慎重に分けています。何かに執着するように夢中になる、ギャンブルにのめり込むようにのめり込む──これは、外から見ると熱意のようですが、中身は「不安からの逃避」であることが多い。逆に健やかな熱意は、軽やかで、いったん離れても戻ってこられる距離感を持っています。

ですから、何かにのめり込んでいる自分に気づいたら、一度「これは、楽しんでいる熱意? それとも、何かから逃げている熱中?」と問いかけてみる。楽しさが先にあるなら、それは育てていい熱意。逆に「これをやっていないと不安」が先にあるなら、ひと呼吸置いたほうがいい。区別がつくだけで、熱意との付き合い方は大きく変わります。

⑤ 一日の中に、小さな「気になる」を仕込む

熱意は、待っていてもなかなか向こうからは来ません。だからラッセルは、「興味の対象を、自分から少しずつ広げていく」ことを勧めます。具体的には、一日の中に、ほんの小さな「気になる」を意識的に仕込むこと。読みたかった本のタイトルを一冊メモする。気になっていた道を、今日だけ通ってみる。ニュースで知らなかった国のことを、一行だけ調べてみる。──こうした「ちょっと寄り道」の積み重ねが、関心の畑を耕してくれます。

ポイントは、「大きな趣味を見つけよう」と力まないこと。畑は、毎日少しずつ耕すから柔らかくなる。月に一度、巨大な趣味を掘り当てるより、毎日一センチずつ、関心の土を柔らかくしておく。気がついたら、種を蒔けば自然と芽が出る土壌が、自分の中に育っているはずです。

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Photo: Basile Morin / CC BY-SA 4.0 via Wikimedia Commons

ラッセルの『幸福論』を、もっと深めたい方へ

ここまでの5つのレッスンを読んで「ラッセルの分析を、解説付きで読みたい」と感じた方には、『幸福論』(バートランド・ラッセル著・堀秀彦訳/角川ソフィア文庫)がおすすめです。各章の要約付きで、初心者にもアクセスしやすい一冊です。

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熱意は、食欲のように、整えていく

熱意は、生まれつき強い人と弱い人が決まっているものではありません。食欲と同じで、整え方次第で、ふっと取り戻せるものです。ラッセルが教えてくれるのは、「夢中になれる対象を一つ見つけよ」ではなく、「目の前のものから、自然に味を引き出す回路を、毎日少しずつ整えよ」ということ。窓を増やし、子どもの目を借り、熱中と熱意を見分け、一日の中に小さな「気になる」を仕込む。それだけで、世界はまた少しおいしくなります。

熱意が薄い日があってもいい

もちろん、何をしてもピンと来ない日はあります。疲れているとき、心配ごとがあるとき、季節の変わり目。そういう日に「もっと熱意を持たなきゃ」と自分を責めると、かえって食欲は遠のいてしまいます。そんなときは、無理に窓を全部開けようとせず、いちばん覗きやすい窓を一つだけ開けてみる。お茶を一杯おいしく飲むだけでも、立派な熱意の芽です。

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Photo: Kreuzschnabel / CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons

あわせて読みたい一冊

「ラッセルの分析を、別角度の翻訳で味わいたい」方には、『幸福論』(バートランド・ラッセル著・片桐ユズル訳/みすず書房)がおすすめです。

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シリーズの今後について

次回⑫は「ラッセルに学ぶ愛情と幸福5レッスン」をお届けします。「与える愛」と「もらう愛」のバランスについて、ラッセルとともに考えます。「3大幸福論編・ラッセル編」はシリーズ全30回まで継続予定です。

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