ラッセル⑬「家族と幸福」5レッスン|距離感が絆を保つ

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近すぎても、遠すぎても、家族の関係はぎくしゃくする。
子どもや親への思いは確かにあるのに、なぜか言葉がうまくかみ合わない。
「家族なんだから」が、ときどき苦しさに変わる。

こんにちは、社会福祉士・ケアマネジャーをしているしおこめパパです。3大幸福論編・ラッセル編⑬、テーマは「ラッセルに学ぶ家族と幸福5レッスン」です。前回の「愛情」に続いて、今回はその愛情がいちばん濃く、いちばん難しい場所──家族について、ラッセルとともに考えていきます。

ラッセルは「家族は人生最大の幸福源にも、最大の不幸源にもなりうる」と書きました。これは脅しではなく、家族関係がそれだけ深く根を張るものだからこその指摘です。彼が大事にしたのは、家族を「ひとつのかたまり」として扱わないこと。親も子も配偶者も、まずはそれぞれが独立した人格を持つひとりの人間で、その上で結ばれていく──そういう順番を、ラッセルは何度も強調しています。

家族は、ひとつに溶け合うほど幸福になるのではない。それぞれが独立しながらつながるとき、いちばん健やかになる。

ケアマネとして、たくさんのご家族とお会いしてきました。仲のいいご家族ほど、実は「ほどよい距離」を上手に取られていることが多いように感じます。逆に「家族なんだから」と密度を高めすぎているお宅ほど、ささいなすれ違いで深く傷つき合ってしまう場面に出会います。家族は近ければ近いほど幸せ、ではない。──ラッセルが教えてくれる視点は、福祉現場の実感ともよく重なります。

ラッセルに学ぶ家族と幸福5レッスン

家族について、ラッセルは「親密さ」よりも「適切な距離感」と「相互の尊重」を中心に語ります。ここからは、その視点を日常に落とすための5つの視点をお伝えします。

① 家族を「ひとつのかたまり」にしない

ラッセルは、家族を「ひとつのかたまり」のように扱うことを警戒しました。「うちの家族はこうだ」と一括りにすると、その中にいる一人ひとりの個性や望みが見えなくなってしまうからです。家族の幸福は、メンバー全員が同じ色に染まることではなく、それぞれが自分らしくいられるまま、ゆるくつながっていることから生まれます。

だからまず、「うちの家族は◯◯だから」と決めつけている言葉があったら、一度ほどいてみる。「父は厳しい人」「子どもは内気な子」と決めつけてきた言葉も、よく見ると半分は思い込みかもしれません。一人ひとりを、決めつけの色眼鏡なしに、もう一度見直す。これが、家族のなかにそれぞれの居場所を作る第一歩です。

② 親が自分の人生を持つことが、家族の健康

ラッセルは、親が「自分の人生を生きていること」を、家族の健康にとって非常に大切な条件だと考えました。すべてを子どもに捧げ、親自身の楽しみや友人関係をなくしてしまうと、子どもへの愛情はやがて「期待」や「重さ」に変わりがちです。逆に、親が自分の趣味や仕事や友情をきちんと持っていると、子どもへの愛情は軽やかで、押しつけがましくないものになります。

「子どものために」と言いながら、自分の時間を削ってばかりいないか、ときどき棚卸ししてみましょう。月に一度の友人とのランチ、夜の読書時間、好きなドラマ。こうした小さな「自分の時間」を確保することは、わがままではなく家族への投資です。親が機嫌よくいられることが、家族の温度を保ってくれます。

③ 「権威」ではなく「対話」で家族を結ぶ

ラッセルは、家族のなかでの権威的な支配を強く批判しました。「父親だから」「親なんだから」と力で押さえつける関係は、表面的には静かでも、内側に少しずつ恨みが溜まっていく。健やかな家族は、立場の上下ではなく、対話の積み重ねで結ばれている、と彼は考えました。

もちろん、親としての判断や、暮らしのルールを示す場面はあります。それでも、「これは私が決めたから」だけで終わらせず、「なぜそうしたいのか」を一言添えるだけで、伝わり方は大きく変わります。子どもや配偶者の言い分を最後まで聞いてから自分の意見を言う──このひと手間が、長い目で見た家族の絆を強くします。

④ 期待のかけすぎを、ふっとゆるめる

家族は、いちばん身近にいるからこそ、つい期待をかけすぎてしまう関係です。「もっと勉強してほしい」「もっと家事を手伝ってほしい」「もっと自分を理解してほしい」。──こうした「もっと」が積もると、相手は息苦しくなり、自分自身もイライラが増えていきます。ラッセルは、家族の幸福には「期待のかけすぎを、定期的にゆるめる」ことが欠かせないと教えています。

期待を全部捨てる必要はありません。「これくらいできていれば十分」「これだけは譲れない」というラインを、少しだけ下げてみる。下げた分だけ、相手の小さな頑張りが目に入りやすくなります。期待のしすぎは、見えていたはずの良いところを見えなくしてしまう。家族とは、たまにメガネを少しゆるめる勇気が必要な関係です。

⑤ 家族の中にも、「ひとりの時間」を残す

ラッセルは、家族の中であっても「ひとりでいる時間」を大切にすることを勧めました。常に一緒、いつも誰かといる状態は、一見仲が良さそうに見えますが、長く続くとお互いに息苦しくなります。それぞれが「ひとりに戻る時間」を持っているからこそ、また一緒にいる時間を新鮮に味わえる、というのが彼の見立てです。

家にいるあいだ、別の部屋で読書をする時間を持つ。週末に各自の趣味の時間を尊重する。家族全員の予定を合わせなくていい日があっていい。──こうした「ひとりの余白」が、家族の空気を柔らかく保ってくれます。家族の中で「ひとり」を尊重できることは、関係の成熟のサインでもあります。

Bourtzi castle harbour Karystos Euboea Greece
Photo: Jebulon / CC0 via Wikimedia Commons

ラッセルの『幸福論』を、もっと深めたい方へ

ここまでの5つのレッスンを読んで「ラッセルの分析を、別角度の翻訳で味わいたい」と感じた方には、『幸福論』(バートランド・ラッセル著・片桐ユズル訳/みすず書房)がおすすめです。家族の章も、独自のリズムで読み直せる一冊です。

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家族の幸福は、密度ではなく距離感

家族についてラッセルが教えてくれることを一言で言うと、「家族の幸福は密度ではなく、適切な距離感から生まれる」ということに尽きます。ひとつの色に染まるのではなく、一人ひとりが独立した人間として尊重される。親が自分の人生を持ち、対話で結ばれ、期待をかけすぎず、ひとりの時間も大切にする。──こうした距離の取り方が、家族を長い時間支える土台になっていきます。

家族とうまくいかない日があってもいい

家族は近いからこそ、ちょっとしたひと言でぶつかります。「今日はうまく話せなかった」「言いすぎてしまった」と思う夜もあります。そういう日に「家族なのに」と自分を責めると、関係はかえって硬くなります。家族でも、いえ、家族だからこそ、距離をとっていい日があります。今日は別の部屋で過ごし、明日もう一度ふつうに「おはよう」と言える──それだけで、家族の幸福は十分に取り戻せます。

Clouds over the Xe Don River with boats at sunset
Photo: Basile Morin / CC BY-SA 4.0 via Wikimedia Commons

あわせて読みたい一冊

解説付きで気軽に学びたい方には、『幸福論』(バートランド・ラッセル著・堀秀彦訳/角川ソフィア文庫)もおすすめです。家族の章のポイントが、要約付きでつかみやすい一冊です。

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シリーズの今後について

次回⑭は「ラッセルに学ぶ仕事と幸福5レッスン」をお届けします。仕事を「我慢」ではなく「幸福の柱」に変えていく視点について、ラッセルとともに考えます。「3大幸福論編・ラッセル編」はシリーズ全30回まで継続予定です。

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