ラッセル⑭「仕事と幸福」5レッスン|技能と建設、二つの喜び

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「仕事は人生のおまけ」では、なんとなく寂しい。
でも「仕事こそ人生」と思いきると、苦しくなる日もある。
仕事と幸福って、どう折り合いをつけるのが正解なんだろう。

こんにちは、社会福祉士・ケアマネジャーをしているしおこめパパです。3大幸福論編・ラッセル編⑭、テーマは「ラッセルに学ぶ仕事と幸福5レッスン」です。多くの大人にとって、人生のかなりの時間を占めるのが「仕事」。今回はその仕事を、不幸の原因ではなく幸福の柱に変えていく視点を、ラッセルとともに考えます。

ラッセルは、仕事について意外なことを言います。「仕事は、ほとんどの人にとって退屈の解毒剤である」。──つまり、何もしない時間が長すぎるほうがむしろ不幸なのだ、と。さらに彼は、仕事から幸福が生まれる条件として、「技能の発揮」と「建設している感覚」の二つを挙げました。ただ時間を埋めるだけの労働ではなく、技を磨き、何かが少しずつ形になっていく実感。──この二つがそろうとき、仕事は人生の楽しみになります。

仕事は、退屈の解毒剤。そこに技能と建設の喜びが加わると、幸福の柱になる。

ケアマネとしての日々を振り返ると、「仕事を辞めた途端、急に元気がなくなった」というご高齢の方に何度もお会いしました。同時に、定年後も小さな農作業や、ボランティアや、地域の役割を続けておられる方は、表情がぐっと豊かに保たれている。仕事は単なる収入源ではなく、「自分が誰かの役に立っている」「自分の手で何かが育っている」という実感の入れ物なのだ──と、現場で何度も思わされます。

ラッセルに学ぶ仕事と幸福5レッスン

仕事をただの我慢ではなく、幸福の柱に変えていくために、ラッセルが教えてくれる5つの視点をお伝えします。

① 仕事は「退屈の解毒剤」だと知る

ラッセルは、「退屈ほど人を不幸にするものはない」と書きました。何もすることがない時間が長すぎると、人は自分の中で勝手に不幸を作り出してしまう。だからこそ、仕事には「退屈から救ってくれる」という側面が確かにある、と彼は言うのです。私たちはつい「仕事のせいで疲れる」と感じますが、視点を変えれば、仕事は私たちの一日を、不毛な退屈から守ってくれているとも言えます。

日々の仕事に少し気が滅入ったときは、「もしこの仕事が全部なかったら、自分は今日どう過ごすだろう」と一度想像してみる。退屈な数時間を持て余す自分が見えてきたら、それは仕事が自分の生活に骨格を与えてくれている証拠です。仕事を「敵」とだけ見るのをやめると、関係はずいぶん柔らかくなります。

② 仕事の中に「技能の発揮」を見つける

ラッセルが、仕事から幸福が生まれる条件として最初に挙げたのは「技能の発揮」でした。自分の持っている技や知識、経験を使って、何かをこなせている感覚。これは収入や肩書きとは別の、しずかな満足を運んできてくれます。技能は職人技でなくて構いません。資料をきれいにまとめる、後輩に分かりやすく説明する、お客さまの表情をすぐ読み取る。──これらすべてが立派な技能です。

今日の仕事のなかで、自分が「ちょっと得意だな」と感じた瞬間を、一日の終わりにひとつだけ思い出してみる。たった一つでも、技能を発揮できた感覚があれば、その日の仕事は幸福の側に寄っています。技能は意識して数えると、思っていた以上に多く見つかります。

③ 「建設している」感覚を持つ

ラッセルが挙げたもう一つの条件が、「建設の感覚」です。少しずつ何かが積み上がっていく、形になっていく、育っていく──そういう実感は、仕事の幸福度を大きく変えます。たとえ目立たない仕事でも、書類が一冊整理されていく、お客さまとの信頼が一段深まる、後輩が少し育つ。──こうした「少しずつの積み上げ」を意識して見るだけで、毎日の仕事はずいぶん変わって見えます。

週に一度でいい、自分が関わった仕事の中で「今週、何が少し前に進んだか」を書き出してみてください。一行でも構いません。「先週より、ここまで進んだ」と書ける項目が一つでもあれば、それは確かに何かを建設しているということ。建設の感覚は、自然に湧くものではなく、意識して「見つける」ものなのです。

④ 成功は階段、いっきに登れなくていい

ラッセルは、安定した幸福をもたらす仕事として、「成功が階段状にゆるやかに続くもの」を挙げました。一気に頂上を目指す仕事は、たどり着いた瞬間に虚しくなりがちです。一方、毎日ほんの少しずつ進歩を感じられる仕事は、ずっと長く幸福を支えてくれる。これは、ラッセルが「ゆるい成功体験を、長く積む」ことを推奨したサインです。

ですから、いますぐ大きく成功しなくていい。今日の仕事の中で「先週よりほんの少しでも前に進めた」と感じられたら、それは立派な成功です。階段は一段ずつ。隣の人と比べて遅く見えても、自分のペースで登り続けているなら、それでもう、幸福の方向に進んでいます。

⑤ 仕事と私生活、両方の柱を立てる

ラッセルは、仕事を幸福の柱の一本として大切にする一方で、「仕事一本だけにする」ことには警鐘を鳴らしました。仕事だけに自分の価値を預けてしまうと、不調や挫折のとき、人生そのものが揺らいでしまうからです。だから彼は、仕事と並んで家族、友情、趣味、社会との関わりなど、別の柱も持つことを勧めました。

柱は太い細いがあっていい、でも本数は二本三本あったほうがいい。これがラッセルからの大事なアドバイスです。一本の柱がぐらついたとき、別の柱が家を支えてくれる。仕事を頑張る人ほど、意識して家族や趣味や友人との時間を残しておく。これは仕事を軽く見ているのではなく、むしろ仕事を含めた人生全体を、長く健やかに保つための知恵です。

2014 Yorkshire Dales country road Swaledale Askrig
Photo: Kreuzschnabel / CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons

ラッセルの『幸福論』を、もっと深めたい方へ

ここまでの5つのレッスンを読んで「ラッセルの仕事論を、原典で深く読みたい」と感じた方には、『幸福論』(バートランド・ラッセル著・安藤貞雄訳/岩波文庫)がおすすめです。日本のラッセル読書のスタンダードで、仕事と幸福の関係を、論理の筋を追いながらじっくり味わえます。

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仕事は、技能と建設で「楽しみ」に変わる

仕事についてラッセルが教えてくれることをまとめると、「仕事は退屈の解毒剤であり、技能と建設の感覚が加わると幸福の柱になる」ということに尽きます。退屈から自分を救ってくれていることに気づき、技能を発揮できる場面を数え、建設している実感を意識して見つけ、ゆるい階段を一段ずつ登る。そして、仕事だけに人生を預けず、ほかの柱も並べて立てておく。──これだけで、仕事は驚くほど「自分の味方」になってくれます。

仕事がしんどい日があってもいい

もちろん、毎日が前向きにいくわけではありません。仕事に行きたくない朝、上司や同僚との関係で心がすり減る日、ミスをして落ち込む夜もあります。そういう日に「もっと仕事を好きにならなきゃ」と自分を追い詰めると、関係はかえって悪化します。しんどい日は、しんどいまま受け入れていい。ただ、明日もまた「ひとつだけ技能を発揮できた」と思える瞬間が来るのを、静かに待ちましょう。

Bodenseeregatta Rund um 2015
Photo: Feel free to use my photos, but please mention me / CC BY-SA 3.0 at via Wikimedia Commons

あわせて読みたい一冊

「ラッセルの仕事論を、別角度の翻訳で味わいたい」方には、『幸福論』(バートランド・ラッセル著・片桐ユズル訳/みすず書房)もおすすめです。仕事の章の重要なフレーズが、独自のリズムで読み直せる一冊です。

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シリーズの今後について

次回⑮は「ラッセルに学ぶ私心のない興味5レッスン」をお届けします。仕事や家族から少し離れた、「自分の損得を忘れて夢中になれるもの」がなぜ幸福にとって大切なのか、ラッセルとともに考えます。「3大幸福論編・ラッセル編」はシリーズ全30回まで継続予定です。

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