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送信ボタンを押す前に、何度も読み返す。それでも「どこか間違っていないか」と不安が消えない。
小さなミスが頭から離れず、家に帰っても仕事のことばかり考えてしまう。
ちゃんとやりたいだけなのに、なぜか、いつも疲れ果てている。
こんにちは。社会福祉士・ケアマネジャーで、40代のパパです。新シリーズ「4人の哲学者に学ぶ 暮らしの実践編」第13話のテーマは、まじめな人ほど苦しむ「完璧主義・ミスが怖くて疲れる」です。
私自身、書類ひとつに何時間もかけ、ミスを恐れて身動きが取れなくなった時期があります。完璧を目指すほど、心はすり減る。今日は、完璧主義をやさしくゆるめ、ラクに働き続けるための、4人の哲学者の処方箋を5つお届けします。
先に大事なことを。完璧主義は、能力の高さではなく「失敗への恐れ」から生まれます。完璧でないと、認められない・嫌われると感じている。だから目標は、もっと完璧になることではなく、「不完全なままでも大丈夫」と思えるようになることです。
「大切なのは、何を与えられて生まれたかではなく、与えられたものをどう使うかである」
——アルフレッド・アドラー
福祉の現場では、「完璧にケアしなければ」と抱え込み、燃え尽きてしまう支援者をたくさん見てきました。長く穏やかに働き続ける人は、たいてい「ほどよく手を抜く技術」を持っています。完璧主義をゆるめることは、いいかげんになることではなく、長く走り続けるための知恵です。
完璧主義に疲れた人に効く 5つの処方箋
処方箋① 「不完全である勇気」を持つ(アドラー)
アドラー心理学には「不完全である勇気」という考え方があります。人は誰も完璧にはなれない。にもかかわらず完璧を自分に課すと、永遠に「まだ足りない」と自分を責め続けることになります。完璧主義の苦しさの正体は、ここにあります。
だから、「不完全な自分を、それでもよしとする勇気」を持つ。ミスをした自分を「ダメな人間」ではなく「人間だから当然」と受け止める。完璧でない自分を許せた分だけ、人は身軽に動けるようになります。不完全を受け入れることは、敗北ではなく、自由への第一歩です。
処方箋② 未来の不安より、今できることに集中する(アラン)
アランは、不安は「まだ起きていない未来」を想像することから生まれると考えました。完璧主義の疲れの多くは、「もしミスしたら」という、まだ起きていない失敗を何度も先取りすることから来ています。頭の中で失敗を百回経験すれば、心は百回すり減ります。
アランの処方は、考えるより、今の手元の作業に集中すること。未来の不安に飲み込まれそうになったら、目の前の「今やる一つ」だけに意識を戻す。体を動かし、一つずつ片づける。今ここに集中している間は、未来の不安は入り込めません。上機嫌は、今を生きる人のところに訪れます。
処方箋③ 「ねばならない」の正体に、名前をつける(ラッセル)
ラッセルは、漠然とした強迫感の正体に名前をつければ、半分は対処できると説きました。完璧主義の人の心には、「完璧でねばならない」という声が響いています。でも、その「ねばならない」の下には、たいてい別の本音が隠れています。
「ミスしたら認められない」「嫌われる」「価値がないと思われる」。正体に名前をつけてみると、それは事実ではなく「恐れ」だと気づきます。実際には、たいていのミスは取り返しがつくし、一度の失敗で人の価値は決まりません。「ねばならない」を「できれば、でいい」に言い換える。それだけで、肩の力が抜けます。

処方箋④ 誠実に、しかし「合格ライン」を決めておく(ヒルティ)
ヒルティは、誠実に、しかし効率よく物事を進めることを重んじました。完璧主義の落とし穴は、すべてに120点を求めて、時間も気力も使い果たすこと。でも、すべての仕事が最重要なわけではありません。
だから、仕事ごとに「合格ライン」を先に決めておく。本当に大事な仕事は丁寧に、そうでないものは「誠実な80点」で手を離す。100点を目指して終わらないより、80点で前に進めるほうが、結果的に多くを成し遂げられます。完璧ではなく「誠実に、ちょうどよく」。これが、長く働ける人の流儀です。
処方箋⑤ 「ミスしないか」より「役に立てたか」を見る(アドラー)
最後に、4人の知恵を束ねる視点を。アドラーの「貢献感」です。完璧主義の人は、「ミスをしないこと」に意識が向きすぎて、「誰かの役に立てたか」という本来の目的を見失いがちです。減点を恐れる視点は、心をどんどん縮ませます。
そこで、一日の終わりに「今日、誰かの役に立てたこと」を一つ思い出す。多少の粗があっても、その仕事は確かに誰かを助けたはず。「減点されないか」から「加点できたか」へ、物差しを変える。貢献に目を向けると、ミスへの恐れは小さくなり、仕事そのものに、静かなやりがいが戻ってきます。
感情の振り回されから、抜け出したい方へ
不安や自責の感情に振り回されやすい方には、岩井俊憲さんの『感情を整えるアドラーの教え』(大和書房)がおすすめです。怒りや不安、劣等感といった感情と上手に付き合う方法を、アドラー心理学の視点でやさしく解説した一冊。完璧主義の根っこにある「恐れ」を、扱える形に変えるヒントが見つかります。
完璧を目指せるのは、誠実な証拠
5つの処方箋を束ねます。①不完全である勇気(アドラー)、②未来の不安より今に集中(アラン)、③「ねばならない」の正体に名前を(ラッセル)、④誠実に、しかし合格ラインを決める(ヒルティ)、⑤ミスより貢献を見る(アドラー)。今日は、ひとつだけ。
そもそも完璧を目指せるのは、あなたが仕事に誠実で、責任感が強いからです。いいかげんな人は、完璧主義にすらなりません。その誠実さは、あなたの大きな財産。あとは、その力を「自分を追い込む方向」ではなく、「ちょうどよく発揮する方向」に向け直すだけです。
うまくできない日が、あってもいい
ミスをして落ち込む日があっても、自分を責めすぎないでください。ミスは、あなたが挑戦している証拠でもあります。哲学は、完璧を強いる鞭ではなく、不完全な自分にやさしくなるための杖です。今日ミスをしたなら、「人間だもの」と一度つぶやいて、温かいお風呂にでも入ってください。明日のあなたは、また誰かの役に立てます。

あわせて読みたい一冊
処方箋④「誠実に、しかしちょうどよく」の原点を味わいたい方は、ヒルティの『幸福論』(草間平作・大和邦太郎 訳・岩波文庫)をぜひ。誠実に、こつこつと、しかし力みすぎずに物事を進める知恵が、静かな言葉で語られます。完璧でなくても誠実に働くことの尊さを、思い出させてくれる一冊です。
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このシリーズの今後について
「4人の哲学者に学ぶ 暮らしの実践編」は、夫婦・子育て・職場の身近な悩みに、アドラーと3大幸福論の知恵を効かせていくシリーズです。次回は夫婦編「お金の価値観のズレ・金銭感覚の違いの処方箋」。毎朝6時に更新していきます。今日は、ひとつだけ「80点で出す」を試してみてください。


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