苦手な上司に消耗する人へ|職場の人間関係に効く4哲学者の処方箋

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あの人の機嫌をうかがう毎日に、心がすり減っていく。
理不尽な言い方をされても、笑ってやり過ごし、家に帰ってから思い出して、また落ち込む。
仕事の中身より、「人」のことで、いちばん消耗している気がする。

こんにちは。社会福祉士・ケアマネジャーで、40代のパパです。福祉の現場も、人間関係の連続でした。新シリーズ「4人の哲学者に学ぶ 暮らしの実践編」第7話のテーマは、働く人の悩みの最大の原因——「苦手な上司・職場の人間関係に消耗する」問題です。

アドラーは「すべての悩みは対人関係の悩みである」と言いました。裏を返せば、対人関係との付き合い方が変われば、悩みの大半は軽くなる、ということ。今日は、苦手な人に振り回されないための、4人の哲学者の処方箋を5つお届けします。

先に大事なことを。苦手な上司を「好きになる」必要はありません。目標は、相手を変えることでも、無理に好きになることでもなく、「相手に、自分の心の主導権を渡さない」こと。相手はそのままでいい。こちらの受け止め方を、少し変えるだけです。

「すべての悩みは、対人関係の悩みである」

——アルフレッド・アドラー

福祉の現場で学んだのは、「合わない人」は必ずいる、という当たり前の事実です。全員と仲良くは、できません。だからこそ、苦手な人に消耗しすぎない「距離の取り方」を持っておく。それは逃げではなく、長く働き続けるための、大切な技術です。

苦手な上司に消耗しないための 5つの処方箋

処方箋① 相手の機嫌は「相手の課題」と切り分ける(アドラー)

アドラーの「課題の分離」は、職場の消耗に劇的に効きます。苦手な上司に振り回されるのは、「相手の機嫌」を自分の責任のように背負っているから。上司が不機嫌なのは、上司の課題です。その日の機嫌、性格、言い方——どれも、あなたがコントロールできるものではありません。

あなたの課題は、「自分の仕事を誠実にすること」まで。相手がそれをどう受け取り、どんな態度を取るかは、相手の課題です。「機嫌が悪いな。でも、それは私の責任じゃない」。この線を引けると、相手の不機嫌が、自分の心まで侵入してこなくなります。消耗の多くは、相手の課題を背負った分です。

処方箋② 巻き込まれず、自分の上機嫌を守る(アラン)

アランは、不機嫌は伝染すると言いました。苦手な上司の不機嫌は、放っておくと職場全体に広がり、あなたの心まで染めます。けれど、上機嫌もまた意志で守れる。相手の機嫌の波に、自分の機嫌を同期させない、という選択です。

嫌な言い方をされても、心の中で「はい、それはあなたの天気ね」とつぶやき、自分の上機嫌は手放さない。昼休みに好きな音楽を聴く、外の空気を吸う、温かいコーヒーを飲む。意識して機嫌を整える小さな習慣が、相手の不機嫌への防波堤になります。自分の機嫌は、自分で守る。これが、消耗しない人の共通点です。

処方箋③ 嫉妬・劣等感の「正体」に名前をつける(ラッセル)

ラッセルは、嫉妬と比較を不幸の大きな原因に挙げました。職場の消耗の裏には、しばしば「あの人ばかり評価される」「自分は認められない」という、比較の痛みが隠れています。漠然とモヤモヤしているとき、その正体は、たいてい比較です。

正体に名前をつけると、対処できます。「私は今、同僚と比べて焦っているんだ」と気づくだけで、感情は少し静まる。そしてラッセルは言います。他人の評価という、コントロールできないものを追うより、自分の仕事そのものへの興味に立ち返れと。比較の物差しを置くと、職場はぐっと生きやすくなります。

夕暮れの街の風景
Photo: Michal Klajban / CC BY-SA 4.0 via Wikimedia Commons

処方箋④ 誠実に、しかし淡々と——感情を消耗品にしない(ヒルティ)

ヒルティは、誠実さと自制を重んじました。苦手な上司への対応で疲れ果てるのは、一回ごとに感情をフルに動かしているからです。理不尽のたびに腹を立て、落ち込んでいては、心の電池はすぐ切れます。

ヒルティ的な処方は、「やるべきことは誠実に、しかし感情は淡々と」。仕事の報告や対応は、きちんと、誠実に行う。でも、相手の態度に、いちいち感情を全投入しない。「これは仕事。淡々と片づける」と、感情と業務を切り離す。誠実さは保ちつつ、心は省エネで。これが、長く働き続ける人の知恵です。

処方箋⑤ 苦手な相手も「敵」ではなく「仲間」と置く(アドラー)

最後に、4人の知恵を束ねる視点を。アドラーの「共同体感覚」です。苦手な上司を「敵」と見ると、顔を合わせるたびに身構え、消耗します。でもアドラーは、他者を「敵」ではなく「仲間」と見るところに、安心が生まれると説きました。

好きになる必要はありません。ただ、「この人も、同じ職場で、それぞれの事情を抱えて働いている一人だ」と、ほんの少し想像してみる。苦手な上司も、上からのプレッシャーや、不器用さを抱えているのかもしれない。完全に理解できなくていい。「敵」を「事情のある仲間」に置き換えるだけで、身構えがゆるみ、消耗は確実に減ります。

職場の人間関係を、もっとラクにしたい方へ

上司との関係に悩む方には、小倉広さんの『もしアドラーが上司だったら』(プレジデント社)がおすすめです。物語形式で、課題の分離や勇気づけを「職場で実際にどう使うか」が体感できる一冊。苦手な上司との関係を、消耗戦から、少しラクな距離感へと変えるヒントが詰まっています。

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消耗するのは、まじめに向き合っている証拠

5つの処方箋を束ねます。①相手の機嫌は相手の課題(アドラー)、②自分の上機嫌を守る(アラン)、③嫉妬の正体に名前をつける(ラッセル)、④誠実に、しかし淡々と(ヒルティ)、⑤敵を「事情のある仲間」に置く(アドラー)。全部はいりません。明日、ひとつだけ。

そもそも、人間関係で消耗できるのは、あなたが相手とちゃんと向き合おうとしているからです。どうでもいい相手には、消耗すらしません。やさしくて、まじめだからこそ、すり減る。だから、その優しさを、まず自分に向けてあげてください。あなたの心の主導権は、苦手なあの人ではなく、あなた自身が握っています。

すり減る日が、あってもいい

どうしても消耗してしまう日があっても、自分を責めないでください。哲学は、強い人間になるための鞭ではなく、しんどい一日をやり過ごすための杖です。今日すり減ったなら、帰り道に好きなものをひとつ買って、自分を労ってください。そして、もし限界を超えそうなら、その職場から離れることも、立派な選択肢のひとつです。あなたの心のほうが、どんな仕事よりも大切です。

穏やかな海辺の風景
Photo: Tomascastelazo / CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons

あわせて読みたい一冊

処方箋②「自分の上機嫌を守る」の原点を味わいたい方は、アランの『幸福論』(神谷幹夫 訳・岩波文庫)をぜひ。不機嫌に飲み込まれず、上機嫌を意志でつくる知恵が、短い断章で胸に届きます。苦手な人の天気に左右されない心を育てる、いちばんやさしい教科書です。

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このシリーズの今後について

「4人の哲学者に学ぶ 暮らしの実践編」は、夫婦・子育て・職場の身近な悩みに、アドラーと3大幸福論の知恵を効かせていくシリーズです。次回は夫婦編「家事・育児の分担への不満(ワンオペ感)の処方箋」。毎朝6時に更新していきます。明日は、相手の機嫌を、そっと手放してみてください。

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