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親の介護が始まる、あるいは「そろそろかも」と感じる時期。
「自分は十分にやれているだろうか」と、自分を責める夜が増えていく。
介護する人もされる人も、もう少し穏やかに過ごせる道はないだろうか。
こんにちは、社会福祉士・ケアマネジャーをしているしおこめパパです。3大幸福論編・ラッセル編⑳、テーマは「ラッセルに学ぶ介護・親世代との関わり5レッスン」です。今回は、私自身の現場の感覚を多く交えながら、ラッセル『幸福論』を介護というテーマで読み直していきます。
ラッセルは『幸福論』のなかで、直接「介護」を論じてはいません。けれど、彼が示した「関心を外側にひらく」「比較を手放す」「期待をかけすぎない」「私心のない興味を持つ」「努力と諦めのバランスを取る」といった原理は、実は介護の現場でこそ強い力を発揮します。なぜなら介護は、毎日が答えのない選択の連続で、頭の中だけで考えていると、簡単に閉じこもってしまうからです。
介護は、頭の中だけで考えると行き詰まる。外側にひらいた窓と、健全な諦めが、両方を救ってくれる。
ケアマネとして、たくさんのご家族の介護に伴走させていただいてきました。介護のなかで、ご本人もご家族も穏やかでいられるご家庭には、共通点があります。それは「介護以外の話題」が、家のなかにちゃんと残っていることです。庭の花、孫の習い事、近所のニュース、推しのチームの結果。──ラッセルが言う「外側にひらいた窓」が複数開いているご家庭は、介護そのものの大変さは変わらなくても、暮らしの温度がまるで違います。
ラッセルに学ぶ介護・親世代との関わり5レッスン
介護する人もされる人も、もう少し穏やかでいるために。ラッセルの幸福論を、介護というテーマで読み直した5つの視点をお伝えします。
① 親世代にも「関心の窓」を残す
ラッセルが「熱意」と「私心のない興味」の章で繰り返し強調したように、人が幸福でいるためには「自分の利害から離れた関心」がいくつかあることが大切です。これは年齢を問いません。介護を受ける側になっても、「自分の体調」や「家族のこと」だけで頭がいっぱいになってしまうと、暮らしはどんどん内側に閉じていきます。
だから、親世代の方とのお話のなかで、できるだけ「関心の窓」を一緒に開ける時間を持ちたいところです。昔好きだった歌、子ども時代の故郷の話、最近のニュース、季節の花。話題はなんでも構いません。「介護にならない時間」が一日のなかにちゃんとあること──これが、親世代の幸福を支える土壌になります。
② 「こうあるべき」をやさしくほどく
ラッセルは、不幸の大きな原因として「べき」「ねば」「ふつう」といった硬い物差しを挙げました。介護の現場でも、この硬い物差しはよく現れます。「親なんだから尊重しなくては」「子どもなんだから世話するべき」「家族なんだから一緒に住むべき」。──こうした「べき」が積み重なるほど、介護はしんどくなっていきます。
「べき」をすべて捨てる必要はありません。ただ、自分や相手を縛っている「べき」が浮かんだら、「これは、本当にそうだろうか」とやさしくほどいてみる。「子どもがみんな同居しなくてもいい」「介護はプロにも頼っていい」「親の気持ちを完璧に分かれなくていい」。──こうした柔らかな視点が、介護する側もされる側も、ずいぶん楽にしてくれます。
③ 介護者自身の「私心のない興味」を捨てない
ラッセルは、人生のシェルターとして「私心のない興味」を持つことを勧めました。これは介護者にこそ、強く伝えたい話です。介護は、油断するとあっという間に「介護一本」の生活になりがちですが、それは介護者の幸福を確実にすり減らしていきます。
スポーツ観戦、好きな漫画、推しのライブ、推理小説、近所の散歩道、趣味のお菓子作り。──こうした自分だけのシェルターを、罪悪感なしに残しておくことは、介護を長く続けるための必須装備です。「自分が休むと親が困る」ではなく、「自分が休むからこそ、明日また穏やかに関われる」。──この順番を、忘れないでください。
④ 「できる」と「できない」のあいだに、健全な距離を作る
ラッセルが「努力と諦めのバランス」で教えてくれたのは、変えられないことには健全に諦め、変えられることに丁寧に向き合うという順番でした。これは介護に、特によく当てはまります。親の老化、病気の進行、性格の癖、過去の家族関係。──変えられないものは、思っているより多いものです。
「ここまでは自分が、ここから先はプロや制度に」と、線を引くことを恐れないでください。介護は一人で完璧にやるものではなく、いくつもの手で分担するものです。「できない自分はダメだ」ではなく、「できないところは、誰かに頼っていい」と自分に許可を出す。これが介護のなかで、いちばん大切な「健全な諦め」です。
⑤ 比較しない、孤立しない
ラッセルが「比較癖を手放す」と教えてくれたことは、介護のなかでも何度も思い出したい言葉です。「あの家はもっとうまくやっている」「自分の介護はぬるい」──こうした比較は、介護をしんどさだけのものに変えてしまいます。同時に、「弱音を吐いたら申し訳ない」と孤立してしまうと、心と体は本当に追い詰められていきます。
比較せず、けれど孤立もしない。──このために、地域包括支援センター、ケアマネジャー、家族会、SNSの介護コミュニティなど、外の窓口を遠慮なく使ってください。話を聞いてもらうだけで、ずいぶん輪郭がはっきりすることがあります。介護の幸福度は、「外との接点をいくつ持っているか」で大きく変わります。

ラッセルの『幸福論』を、もっと深めたい方へ
ここまでの5つのレッスンを読んで「ラッセルの分析を、原典で深く読みたい」と感じた方には、『幸福論』(バートランド・ラッセル著・安藤貞雄訳/岩波文庫)がおすすめです。日本のラッセル読書のスタンダードで、関心・期待・努力・諦めといった、介護を考えるうえでも役立つキーワードを、論理の筋を追いながら味わえます。
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介護される人・する人、両方の幸福のために
ラッセルの幸福論を介護に引き寄せて読み直すと、「介護されるご本人もご家族も、外側へひらいた窓と、健全な諦めと、自分自身のシェルターを大切にしていい」という、シンプルなメッセージが浮かび上がってきます。関心の窓を残し、「べき」をやさしくほどき、介護者自身の楽しみを守り、できないことには健全に線を引き、比較せず孤立しない。──この5つは、介護がいつか始まる前から、心に置いておきたい視点です。
介護にくたびれた日があってもいい
もちろん、これらすべてが毎日できるわけではありません。介護にくたびれて、何もする気が起きない日もあります。そういう日は、無理に「もっとちゃんと」と頑張らず、まず自分のために温かい飲み物を一杯淹れる。可能なら、ショートステイやデイサービスなど、外の手を借りて、一日休む。──「休むことは、続けるための準備」だと、ラッセルなら言ってくれるはずです。

あわせて読みたい一冊
テレビ番組で人気の解説書から入りたい方には、『NHK「100分de名著」ブックス バートランド・ラッセル 幸福論 競争、疲れ、ねたみから解き放たれるために』(小川仁志/NHK出版)もおすすめです。哲学者・小川仁志さんがラッセルの幸福論を、現代の生きづらさに引き寄せて分かりやすく解説した一冊で、介護や家族のテーマにも応用しやすい平易な入門書です。
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シリーズの今後について
次回㉑からは、ラッセル幸福論を毎日の暮らしにより深く落とし込むためのテーマを順番にお届けしていきます。「3大幸福論編・ラッセル編」はシリーズ全30回まで継続予定です。
このシリーズの他の記事
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- 3大幸福論編・ラッセル編③ ラッセルに学ぶ幸福をもたらすもの5レッスン
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